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【断 中条省平】遠くなった神話
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リチャード・ウィドマークが死んだ。享年93。大往生というべきだろう。あれほどスクリーン上で冷酷に人を殺した殺し屋スターの長命に思わず笑ってしまった。
10年ほど前、ウィドマークの元気な姿を目撃した。パリのシネマテークが彼の映画人生に敬意を表してパリに招いた折のことだ。
このときウィドマークの生涯の代表作として選ばれた映画は、ジョン・フォード監督の『馬上の二人』。この作品でウィドマークは、彼らしからぬ高潔な騎兵隊の軍人を演じた。フォード自身はこの映画を好まなかったが、主役のジェームズ・スチュワートとウィドマークが並んで魚釣りをしながら他愛ないおしゃべりに興じる場面など、フォード以外には撮れない雅趣があって涙が出た。
ウィドマークはデビュー作『死の接吻』の異常な殺し屋役で一躍脚光を浴びたが、この映画はウィドマーク以外に取るところがない。むしろ、ウィドマークの悪役ぶりが最高の達成を見せた名作は、『街の野獣』だと断言したい。手塚治虫はウィドマークをスカンク草井(!)というキャラクターに翻案したが、そんなウィドマークのとぼけた味わいも出たフィルム・ノワール(犯罪映画)の傑作だ。プロレス場面の迫力でも、映画史上、アルドリッチの『カリフォルニア・ガールズ』と双璧(そうへき)といいたいほどの緊張感がこもっていた。
監督はジュールス・ダッシン。と書いたところでダッシンの訃報(ふほう)が届いた。享年96。ハリウッドの神話もはるかに遠くなった。(学習院大学教授)