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【土・日曜日に書く】論説委員・長辻象平 宇宙の「きぼう」への要望
◆組み立て工事始まる
日本が待ちに待った有人宇宙実験施設「きぼう」の組み立て工事がついに高度400キロの軌道上で始まった。
3月に宇宙飛行士の土井隆雄さんらがスペースシャトル「エンデバー」で、国際宇宙ステーション(ISS)に行き、きぼうの一部を構成する「船内保管室」を仮設して帰還したところである。
6月には、星出彰彦飛行士らがスペースシャトル「ディスカバリー」に「船内実験室」を積んでISSに向かう。船内実験室は、きぼうの中枢部だ。これがISSに取りつけられ、船内保管室が本来の位置に固定されると、きぼうは機能を開始する。
来年3月には第3区画である「船外実験プラットホーム」がシャトルで運ばれ、ISSに先回りして長期滞在中の若田光一飛行士が設置することになっている。
念願の宇宙施設の完成は、目前に近づいた。しかし、喜んでばかりもいられないのが日本の宇宙開発の現実なのだ。
理由はいくつかある。ひとつはあと2年でシャトルが廃止されることだ。ISSへの足は、ロシアのソユーズ宇宙船だけとなる。
米国の宇宙開発の関心は月と火星の有人探査に移っている。金食い虫と化したシャトルの運航や巨費を要するISS計画からは一日でも早く足抜けしたいのが本音であると伝えられる。
ISSそのものの運用も2016年初めに終わる。そうなれば日本がきぼうを使えるのは、わずか7年ほどの期間にすぎない。
◆大型計画に柔軟性を
日本がきぼうに対し、これまでに投じた費用は、総額で約7000億円とされる。きぼうの完成後は毎年400億円がかかるので、「1兆円プロジェクト」だ。
そもそもISSは、米ソ冷戦時代の産物だ。1984年にレーガン米大統領が各国に呼びかけ、日本は翌年に参加を決めた。
それから四半世紀の間に2回のシャトル事故があり、計画は大幅に遅れた。ソ連も崩壊してISSの意義も変わった。ロシアは今やISS建設の中心的存在だ。
この間、日本は米国に振り回され続けた感がある。
ISSの最初の区画が軌道上に運ばれたのは、10年前のことである。大きな温度差や降り注ぐ宇宙線によって、老朽化が進んでいる部分もある。
計画の終わりが見えてきたころになって、ようやく、きぼうの取りつけ工事が始まったのだ。
しかし、きぼうの部分輸送が始まっただけでも、よしとしなければならないだろう。2003年に起きた「コロンビア」の空中分解事故後などは、きぼうの設置そのものも危ぶまれたほどである。
きぼうの教訓から学ぶべきことは多い。大型プロジェクトの進行にあたっては、常に柔軟に状況の変化に対応できる可塑性を計画に持たせておくべきだろう。
3区画からなるきぼうを船内実験室だけに絞り込む変更が可能であれば、シャトルでの運搬も1回で完了したはずだ。
宇宙開発にかぎらず、日本の大型プロジェクトには硬直化が目立つ。原子力船「むつ」の開発などがその例だろう。トラブルで開発が遅れ、完成したときには世界中で需要と関心の波が引いていた。初志貫徹も重要だが、国費は有効に使いたい。
◆壊れやすい安全文化
ISSに関しては、もうひとつ気になることがある。米航空宇宙局(NASA)の安全文化の問題だ。完成を急ぐあまり、シャトルの安全確保をないがしろにするようなことがあっては困る。
NASAは、2機のシャトルを失い、残る3機でISS完成を目指している。飛行頻度が増し、老朽化が進んだ機体と検査チームに負担がかかる。
「チャレンジャー」の事故原因は補助ブースターの欠陥で、それに気づいていたにもかかわらず、改善されていなかった。「コロンビア」の事故は機体の耐熱材の損傷だったが、これは毎回のように起きていた。700枚もの耐熱タイルが傷ついていた例もあるが、NASAは軽視していたのだ。
安全基準を緩めれば、打ち上げ延期も少なくなる。しかし、事故はそうした弛(ゆる)みを見逃さない。
船内実験室の設置で宇宙実験が始まるが、20年前に比べてその魅力は色あせている。地上での技術が急速に進んだこともあり、宇宙の無重量環境の利点が減ったのだ。利用面でもコンティンジェンシープラン(不測事態対応計画)が欠かせない。
中国はオリンピック終了後に「神舟7号」を上げて宇宙遊泳を実行する。大型の「長征5型」ロケットも開発中だ。きぼうの完成を前に気を引き締めたい。(ながつじ しょうへい)