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【断 久坂部羊】最悪の説明の効用

2008.3.14 02:48
このニュースのトピックスコラム・断

 知人の医師が、心筋梗塞(こうそく)で意識不明になった患者を診察して、助かる見込みは10%以下ですと、家族に説明した。患者の妻はショックを受けたようだったが、幸い患者は回復して意識ももどった。すると妻は感激して、「奇跡が起こったんですね」と喜んだ。

 「いや、それほどでも」と医師は言葉を濁したが、妻は「いえ、奇跡です。神様、仏様、先生様々です」と手を合わした。

 患者が運び込まれたとき、医師は助かる見込みは、実は50%くらいだと思ったという。しかし、万一に備えて最悪の予想で説明をしたのだ。そのため過剰な感謝を受けることになってしまった。

 最近の医師は、たいてい最悪の状況を考えて説明する。五分五分だと思っても、正直にそう言って、もし結果が悪いと、どんなに恨まれるかしれないからだ。場合によっては訴訟の危険も起こり得る。ミスのない医療をしていれば、そんな心配はないはずだと言われるかもしれないが、現実は理屈通りには行かない。

 医療は不確実なものであり、偶然にも左右されるから、やはり説明は最悪に備えるのが筋だろう。ことさら悲観的な見通しを聞かされる患者側のショックは思うに余りあるが、安易に楽観的なことを言えば、万一のときに、あとの悲嘆を増大させるばかりだ。

 別の知人は、手術の死亡率は5%だと説明して、患者が亡くなったために、訴えられた。理由は95%安全と言われたのに、死んだのは納得できないということらしい。

 今は少しでも危険のある治療や病気の説明は、実際以上に悪く言うことが多い。危機管理とは最悪に備えることだ。希望的観測は相容(あいい)れない。できるだけ悲観的に見ていたほうが、現実は人に優しい。(医師・作家)

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