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【人、瞬間(ひととき)】あの場所 作家・津本陽さん(78)(下) (1/2ページ)
夕暮れの橋 せつない恋
仙台の市街地を東に流れて海に注ぐ広瀬川に、2連のアーチと橋詰、中央部に灯籠(とうろう)を備えた鉄筋コンクリートの橋がかかっている。昭和の初めに建設された御霊廟(おたまや)橋である。作家・津本陽は、東北大学法学部の学生だった昭和24、25年ごろ、橋のそばにある料亭、東洋館に下宿していた。
「20歳から21歳の1年半くらいですかね。縁続きの人に紹介されて入居したんです。当時の広瀬川は水量がものすごくて、昼間でも大きな岩がごろごろと音を立てて転がっていました」。心の目を、過ぎ去って二度と帰らないあの日々に傾ける。
「懐かしいんですよ、あの辺りは」。ぽつりともらしてから、続ける。
「橋の近くには散髪屋があったかな。坂を上っていったら、大学の正門に着きました。夕暮れどきに橋を渡りながら、ときには欄干にたたずんで思いに沈んだものです。重たい鉄のかたまりが、心にぶら下がっているような気持ちでした」
恋の病だった。
相手は、橋の近くに住んでいた「頭脳明晰(めいせき)で美貌(びぼう)の令嬢」だった。「片思いでした」と振り返るが、気持ちを言葉にして告げなければ、相手には伝わらない。重々承知でも「本当にほれてしまうと、なかなか言いだせないものでして…」時間ばかりが無為に過ぎていった。
人生の大きな分岐点に立っていたのかもしれない。勇気をふりしぼって、言うか言うまいかと煩悶(はんもん)する日々が続いたが「傷つくのが怖くて、結局言えずに終わってしまいました」。

