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【人、瞬間(ひととき)】あの舞台 歌舞伎俳優 市川春猿さん(37)(下)
■女方の可能性広げる新派
役者として、目の前に3つの芝居の世界が広がっているという。
「古典の歌舞伎とスーパー歌舞伎、それと新派をやっていきたい」
歌舞伎は当然として、新派も。明治期、歌舞伎(旧派)に対抗して生まれた演劇には日本の女性風俗がよく描かれている。女方(女形)の春猿が「これぞ」と思い描くのは、泉鏡花の「婦系図」「滝の白糸」など明治、大正の花柳界周辺を描いた舞台だ。鏡花作品には、心地よいせりふがちりばめられている、と熱っぽく語る。
「とにかく言葉の使い方が素晴らしい。遊び心というか、余裕というか。日本人の琴線に触れる、気持ちのいい使い方。完璧(かんぺき)ですね。なかでも花柳界を描いて、独特の世界観がある『日本橋』がすごく好きです」
「日本橋」には、ひとりの男性をめぐり、恋のさや当てをする2人の芸者が登場する。誠実に生きる清葉に対し、奔放な性格のお孝が常にライバル意識を燃やす。「私がやりたいのはお孝の方。その方が自分らしいし、心意気に共感できます」
新派には「名優」と呼ばれる女方が数多くいて、男勝りの仇(あだ)な女を好演してきた。歌舞伎界の先輩、坂東玉三郎が演じる新派の舞台を、羨望(せんぼう)のまなざしで観(み)たこともあったが、その玉三郎が新派の世界を春猿にぐっと近づけてくれた。
平成18年7月、歌舞伎座で鏡花作品4本が上演された。そのうち「天守物語」では、玉三郎(富姫)の妹分として、かつて宮沢りえも演じた亀姫役を務めた。「夜叉ヶ池」では、玉三郎の持ち役だった百合と白雪姫の二役を受け継いだ。
「あっという間に終わりました。余韻に浸る間もなく、毎日が戦争のようでしたね。玉三郎さんは『りえちゃんはよかった』と言ってました。りえちゃんみたいにやってと」
「天守物語」では、あこがれの玉三郎が隣にいて、自分のせりふを忘れるほどだった。主役を演じた「夜叉ヶ池」は、これまでの役者人生のなかでも「一番大きな経験になった」と振り返る。
「女方は、女になろうとするのではなく、女方(という舞台の上の存在)であるべき。そう考えています」。女方の新たな可能性を追い求める春猿は言う。
「新派にはたくさん、いい演目がある。上演されなくなった物を掘り起こしたい」
(文 生田誠)
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次回は歌手、中島啓江(けいこ)さんです。

