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【断 久坂部羊】虚しい希望を振りまくテレビ

2008.2.23 03:34
このニュースのトピックスコラム・断

 先日、テレビで新しいリハビリの可能性をさぐる番組を放送していた。紹介されていたのは、脳の右半分を失いながら麻痺(まひ)から回復した18歳の男性や、右手がほとんど動かなかったのに、新しいリハビリで家事ができるようになった女性、脳梗塞(こうそく)で寝たきりだったのが、新療法のおかげで杖(つえ)で歩けるようになった老人などである。

 スタジオでは、本人も脳出血で障害のあるキャスターが、リハビリの専門医らとともに、新しいリハビリについて、最大限の明るい見通しを語っていた。

 画面には上等そうな器具がたくさん映され、自分もあんな器具でリハビリすれば、きっとよくなると希望を抱いた人も多かっただろう。あるいは、リハビリ専門医がつききりで指導するのを見て、自分もあんなふうにしてほしいと切望した患者も少なくないはずだ。

 しかし、現実にそういうリハビリに手の届く人はどれだけいるだろうか。また、もしそれができても、テレビで紹介されたほど回復する人がどれだけいるのか。

 老人医療の現場で、麻痺に苦しみ、回復の見込みのない状況に悩む患者を多く診ている私としては、こういう番組は酷(ひど)いとしか思えない。たしかに希望を与えるかもしれないが、たいていの患者は、うらやましがらされて終わりだ。

 現場で診ている患者の中で、いちばん楽そうなのは、麻痺を受け入れている人である。逆にもっとも苦しむのは、変えられない現実を変えようとあがく患者だ。

 あるがままを受け入れることは、決して後ろ向きなことではない。それは気持ちを切り替え、別の価値観に目を向けることである。若さや美しさや強さや健康だけが、この世の価値ではないだろう。執着で心まで麻痺させていてはもったいない。(医師・作家)

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