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【断 中村文則】残酷さが伝わらない言葉

2008.2.17 03:07
このニュースのトピックスコラム・断

 「無理心中」という言葉が、非常に嫌いだ。

 元々この言葉は、奇妙である。無理と心中は、そもそも相容れない。「死を願っていない人間を無理やり殺し、自分も死ぬ」というのが正確であり、こういう四文字で簡略に表すべき行為ではないと思う。

 言葉には、その行為の残酷さが伝わり難いものがある。たとえば戦争。戦争と言われると抽象的だが、実際は、同じ人類が、生まれた場所などによって分かれ、お互いを大量に、あの手この手で殺し合う行為である。

 「心中」という言葉が入ることによって、「無理心中」は身勝手な行為であるのに、ある種の「悲劇性」や「憐憫(れんびん)」が含まれるようになる。病弱な親とそれを介護する子供、ということだとまた話は変わってくるかもしれないが、多くの場合、こういう行為ほど酷(ひど)いものはない。平和に見えた家庭の父親が子供や妻を殺し……という事件を見ると、実にやりきれない。犯人は大抵父親である。殺された家族はたまらない。

 日本人の中に「心中」という概念が、未だに根強くあるのだろう。「家族を残していけない」「責任を」というのは、間違っている。報道も、こういう事件を起こした犯人を、あまり社会の犠牲者のように報道しない方がいい。冷酷かもしれないが、自殺に関することを悲劇的に繰り返し報道すると、それは「連鎖」を生みやすい。

 それが経済的な理由なら、自己破産だって出来るし、生活保護だって受けられる。追い詰められた人間が起こした事件を演出しながら報道するより、そうならないための手段を訴える方が、報道の役割として有意義ではないだろうか。(作家)

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