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【人、瞬間(ひととき)】作家・宮本輝さん(60)(下)砂漠で眺めた天山山脈 (1/2ページ)
■砂漠で眺めた天山山脈
作家となって30年余り、年に何本もの大作を生み出す宮本輝には、常に心の支えとしてきた一人の天才がいる。
約1700年前、シルクロードの要衝・亀茲(きじ)国(現・新疆(しんきょう)ウイグル自治区・クチャ)に生まれ、中国の長安(西安)でサンスクリット語の膨大な経典を漢語訳した「鳩摩羅什(くまらじゅう)」だ。
仏教伝来に大きな貢献をした羅什の人生は、決して平坦(へいたん)ではなかった。35歳のころ、その頭脳と仏教知識を得ようとした前秦に攻め入られ母国が滅亡。長安に召し上げられる途中の涼州で政変が起き、16年間も留め置かれるが、51歳でようやく長安にたどり着いて経典の漢語訳に没頭した。
「作家を志していた27歳のころ、新聞か雑誌の十数行の記事でその存在を知りました。悩んだときはいつも羅什を思い、いつか羅什がたどったシルクロードに立とうと」
二十数年来の夢は、自宅が壊滅した阪神・淡路大震災の年の初夏に実現した。震災をきっかけに思い切って出かけた旅は、西安から新疆(しんきょう)ウイグル自治区を経由し、パキスタンのイスラマバードまでの約6700キロを、約40日間かけて車で巡る過酷なコース。酷暑と砂漠の蜃気楼(しんきろう)、竜巻…厳しい自然条件に挑み、生水による下痢や腹痛にも堪えた苦行のような旅だった。

