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【人、瞬間(ひととき)】あのとき 作家・宮本輝さん(60)(上) (1/3ページ)
このニュースのトピックス:メンタルヘルス
転換点はパニック発作
それは、25歳の5月のある日曜日のことだった。宮本輝は、当時勤めていた広告会社の同僚と一緒に、京都競馬場に遊びに行くため京阪電車に乗った。電車は競馬の予想紙を手にした男たちであふれかえり、宮本と同僚も座席に座って予想紙を眺めていた。
「ん、なんかいつもと違うぞ…」
そう感じた瞬間、グワーッと地に引きずり込まれるような強いめまいと激しい動悸(どうき)が一気に襲ってきた。「なんだ? 何が起きたんだ? 電車が傾いたのか」。パニックに陥った自分を、同僚や乗客たちが驚いた様子で見つめていた。
競馬場に着いても気分は落ち着かず、とても馬券を買う気にはなれなかった。そのまま家に戻ることにしたが、帰りの電車の中でも激しい動悸とめまいが何度も襲ってきた。「このまま発狂して、息が止まり、死んでしまうのではないか。ただひたすらに怖ろしかった」
◇
その日を境に、発作は通勤電車の中で毎日起こるようになった。今でいう「パニック障害」だった。しかし、まだ精神的な病が社会的に認知されていない時代。何軒かの内科で診てもらったが、身体に異常はなかった。
やがて発作は、職場の会議中や地下街、人込みの中、式典の最中…四六時中起こるようになった。妻と子供、母親を支える一家の大黒柱だった宮本は、強い恐怖と焦燥感にとりつかれた。
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