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【直木賞講評】「濃密な人間の存在感」北方謙三氏

2008.1.16 21:25

 第138回直木賞について選考委員の北方謙三氏は16日、以下のように講評した。

 選考ではまず、井上荒野「ベーコン」、古処誠二「敵影」、馳星周「約束の地で」の3作品が落ちて、残る3作品(黒川博行「悪果」、桜庭一樹「私の男」、佐々木譲「警官の血」)で決選投票をした結果、桜庭作品が首ひとつリードして受賞した。

 井上作品は、悪口をいう人は少なかったが、もうひとつ、押しと深みが足りなかった。古処作品は、収容所の題材にこだわりすぎて小説的評価が不足していた。馳作品は、いままでの暗黒小説から少し外れて意欲的なところはあったが、一貫したテーマ性が不足していた。

 残る3作品の決選投票は激戦になった。佐々木作品は非常に重厚でよく書かれていたが、新しいものが不足していた。黒川作品はエンターテインメントとしてよく読めたが、それだけだった。

 桜庭作品は人間は書けていないし、リアリティーもない、細かいところの整合性もおかしなところが多々あって、反道徳的、反社会的な部分も問題になったが、非常に濃密な人間の存在感があって、ほかの2作品に比べるとわずかながら上をいくことになり、あえてこれを受賞作として世に問うてみよう−という結果になった。

 9人中、桜庭作品だけが過半数に達した。こんな作品を世の中に出していいのかという論議もあったが、それも覚悟してあえて受賞作とした。選考委員のほとんどが桜庭作品に作家的な資質を感じてしまった。こういう世界も書ける作家的才能の豊かさというか、これまでの文学になかったもの、選考委員会が知らなかったものを持っている。次に何がでてくるか分からない作家の、とても不思議な作品だった。われわれは大きなばくちを打ったのかもしれないが。

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