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【産経抄】12月23日
このニュースのトピックス:第23回正論大賞
「山椒魚は悲しんだ」という鮮やかな書き出しの短編『山椒魚』は井伏鱒二の処女作だった。川の岩屋を棲家(すみか)としていた山椒魚が不覚にも体が大きくなりすぎ、そこから出られなくなる。まぎれ込んできた蛙を「仲間」にすべく体を使って閉じこめる。
▼幽閉された者の絶望感や心理状況をユーモアを交えながら描いた名作である。大正12年、同人誌で読んだ当時中学生の太宰治を文学の世界に引き込んだといわれる。渓流などにすみ、人目に触れることの少ないサンショウウオが「全国区」になる一因ともなった。
▼もっとも小説には山椒魚がどの種のサンショウウオかは書いてない。だが2年間で出口の穴を抜けられないほど頭が大きくなったというから、最大の両生類といわれるオオサンショウウオのような気がする。中部地方より西に生息する特別天然記念物である。
▼少々オーバーに言えば、そのオオサンショウウオが今「絶滅の危機」に直面している。兵庫県内の川の洪水で保護されていたものの中の1匹がカエルツボカビに感染していることが確認されたのだ。発症はしていないが、同じ両生類のカエルからうつされた可能性もあるらしい。
▼カエルツボカビは前世紀末に確認された両生類の大敵だ。発症すれば致死率は90%以上といい、中米である種のカエルが絶滅した例もあるそうだ。恐竜は隕石(いんせき)による気候変動で絶滅したというが、このツボカビも地球の生態系を壊しかねない脅威になっている。
▼『山椒魚』では、岩屋の中での確執でともに弱ってきた山椒魚と蛙との間でこんな会話が交わされる。「それでは、もう駄目なようか?」「もう駄目なようだ」。小説が両生類の未来を暗示していたなどとならないことを願うしかない。
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