ニュース:文化 RSS feed
【断 呉智英】宮本顕治と法秩序
このニュースのトピックス:第23回正論大賞
今年も何人もの重要人物が物故した。七月には共産党の宮本顕治名誉役員が死去した。一九五〇年代前半の一時期やや傍流ではあったが、戦前戦後を通じて一貫して党の最高指導者であった。
宮本の死後、保守系の論壇誌は、彼の関わった戦前のスパイ嫌疑者査問致死事件を一斉に書き立て、その「非人間性」を非難した。バッカじゃなかろか。これでは政治を生徒会ゴッコと勘違いしている革新派と同じじゃないの。
戦前期、共産党は非合法であった。非合法とは権力秩序外の存在ということである。共産党は権力秩序の外から権力奪取を企図し、つまりは革命戦争を考えていた。そうだとすれば、革命軍の中に潜入した敵のスパイを摘発殺害して何の不思議があろう。あらゆる軍事組織・軍事行動の常識ではないか。これを非人間的だと非難するなら、大東亜戦争はおろか、明治維新だって非人間的だと非難すべきだろう。むろん、フランス革命もアメリカ独立もだ。
現在の価値観から過去を裁断してはならないとは、保守派がブリッコの革新派を批判するときの口癖である。その通りだ。現在は平和裡に政治権力が成立している。その秩序内の論理で秩序外の政治行動を道徳的に断罪することなどできない。
革新派が愚かなのは、政治を憲法秩序から演繹(えんえき)して論じることだ。憲法は国家の根本原理ではあるが、政治の根本原理ではない。当然ながら、憲法の前に憲法制定権力が存在している。北朝鮮が日本人拉致など無法を繰り返しても平気なのは、日本国憲法が北朝鮮に及びえないからであり、それは日本とは別個の憲法制定権力が北朝鮮には存立しているからである。
なんか、近頃、保守派までが革新派と同じようにブリッコ化・幼児化していないか。(評論家)