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【断 大月隆寛】「ハケン」と矜持

2007.12.21 03:38
このニュースのトピックス第23回正論大賞

 「ハケン」にまつわって、もう少し。今の「ハケン」の制度が不条理なのは言うまでもない。まずあの異常な「搾取」の仕組みをどうにかしないと、「働く」ことの意味からして世間の信頼を失い、腐ってゆきます。ただ、そんな政策的な話とは別に、今の「ハケン」にかつての口入れ屋に集まる人たちと違うところがあるとしたら、働く側が「個人」の「自由」を価値にしていることでしょう。確かにそれは「自由」ではあります。かつて長谷川伸が記してみせたような渡り職人や渡世人たちと同じくらいには。それは安定や終身雇用とは全く無縁の「名無しさん」の過酷な人生です。しかし、だからこそ「誇り」や「矜持(きょうじ)」がないことにはとても支えきれなかった。「自由」な生に同伴するべき「誇り」には、おそらくそんな「自分」を折れぬよう整えておく効用も含まれていました。

 思えば、地縁や血縁によるつながりがどんどんほどかれてゆく中、職場がかろうじて「共同体」であり得た時代が高度経済成長期でした。今やそこからもほうり出され始めた「個人」は、むき出しの「自由」にさらされて生きてゆかざるを得なくなっている。かつてはそんな生をあえて選ばねばならない境遇に限られていたような「自由」が、遍(あまね)くうっかりと提供されてしまう現在。その過酷さに耐えてゆけるだけの何ものかをうまく持たされないままの「ハケン」全盛、「自由」万歳がわれらの現在です。

 だとしたら、今の「ハケン」の自分に釣り合うだけの「自由」の価値を、嘘でも自分のことばにして武器に変えようとしない限り、「働く」意味は回復されず、手もとには常にありあわせのやせた愚痴や妬(ねた)みしか残らない。今の「ハケン」に品格がほんとに宿り得るとしたら、個々のそんな試練もまた同等に必要なはずです。

(民俗学者)

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