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【わたしの失敗】数学者・藤原正彦さん(64)(2)
■高校受験 数学でパニック
「学校の成績は抜群に良かったのでしょうね」。野暮(やぼ)な質問と承知しながらも、つい聞いてしまった。
「数学、英語はいつもトップクラス。だけど、高校入試では絶対の自信があった数学に思いがけずつまずいてしまってね」。思わず、身を乗り出した。
サッカー少年でもあった藤原が、文武両道を目指して第一志望に選んだのは、当時サッカーも都内でトップレベルの強豪だった東京教育大付属高校(現筑波大付属高校)。
入試当日、数学の試験開始が迫っていた。ふだん通り気負いはない。ふと、父(新田次郎)の助言が脳裏に浮かんだ。
数学試験の心構えとして、「最初の比較的簡単と思われる計算問題は後回しにして、最後の応用問題から先に手をつけるべき」と言われていた。
だが、それに反発していた。「とんでもない、おれは数学に絶対の自信がある。問題を片っ端からすべてなぎ倒して満点をとるに決まっている、と信じて疑いませんでした」
意気揚々と問題用紙をめくったが、最初の計算問題の数式を前に面食らった。
得意だったはずの計算が、この日に限って、どれもひどく難しい。小数やら分数やらが複雑に絡み合って見える。必死で動揺を押さえながら解いてはみたものの、予想以上に時間がかかる。解き終えても答えに自信が持てない。
念のため、検算してみると、なんと4問とも最初の解答と違っているではないか。「気づいてよかったとほっとするより、気が動転して頭の中は大混乱」。すっかり冷静さを失い、結局最後の応用問題では問題文が頭に入らず、意味さえ理解できぬまま、試験終了を告げるベルが非情に鳴り響いた。
当然不合格。例の計算問題はすべて不正解だった。ちなみに、英語は受験生900人中、2番。数学の失敗が足を引っ張ったのは明らかである。
「数学にはとても体力を要します。体力イコール精神力。最後にものを言うのは、とことんこだわるねばり強さ。決して天才のインスピレーションではありません」
数学が必要とする能力を語る言葉の奥に、半世紀前の苦い経験が生きている。
=敬称略
(文 中島幸恵)

