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【産経抄】12月4日
このニュースのトピックス:第23回正論大賞
生まれて初めて見た映画が『黄金狂時代』だという萩本欽一さんは、晩年のチャールズ・チャプリンに会っている。面会の約束のないまま、スイスの屋敷を訪ねたのだ。
▼門の前で粘って4日目、女性マネジャーの対応があまりに冷たかったので、思わず「あの(優しい)映画はウソだ」「インチキ」と日本語で叫んでしまった。すると、その声を聞きつけて、ガウン姿の本人が飛び出してきたという。
▼チャプリンを日本びいきにしたのは、18年間秘書を務めた高野虎市だったといわれる。4度の来日の最初は、昭和7(1932)年、世界旅行の最終目的地としてだった。5月15日、犬養毅首相が開く歓迎会に出るはずが、急遽(きゅうきょ)相撲見物をすることになり、危うく「五・一五事件」から逃れたエピソードはよく知られている。
▼実は首相を射殺した士官たちは、チャプリンも標的にしていた。それを阻止するために高野らが知恵を絞っていたという、きのうの小紙の記事は興味深かった。早速、チャプリン研究家、大野裕之さんが上梓(じょうし)した『チャップリン暗殺』を読んで、喜劇王の僥倖(ぎょうこう)の詳細を知った。
▼チャプリンは、ドイツ軍がポーランドに侵入した翌年、ヒトラーを批判した『独裁者』を公開する。大野さんによると、ヨーロッパで見聞したファシズムの勃興(ぼっこう)と日本での体験が大きく影響していた。独裁者に間違えられたユダヤ人の理髪師が演説するラストシーンは、当初の脚本にはなかったそうだ。
▼「機械より人、知識より優しさや思いやりが必要だ。そうでなければ、人生は暴力に満ち、すべては無になってしまう」。そのメッセージは、テロや格差の広がり、独裁者の出現を阻止できない世界に住むわれわれにも向けられている。