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【往復エッセー】脳あるヒト心ある人 自分の才能がどこにあるか (1/2ページ)

2007.12.3 08:56
このニュースのトピックス第23回正論大賞

 ■解剖学者・養老孟司さんから 作家・角田光代さんへ

 いまタイのバンコクでこれを書いている。日タイ修好120周年記念行事の1つで講演会があり、珍しく虫採り目的ではなく、タイ国にやってきた。それにバンコクは東京と同じく大都会で、虫採りなんか、とてもできない。虫採りならバンコクは通過するだけ。

 バンコクに来ると、いつも東大時代の同級生に会う。タヌース君である。べつになにを話すわけでもない。古い友だちだから、ただ懐かしい。会ったら一緒に食事をする。今回の講演会は、公式には日本に留学していたタイ人の医学・歯学留学生のネットワーク設立記念行事である。だから昭和28年以来、戦後最初期の留学生になるタヌース君は、もちろん出席してくれていた。バンコクに住んでいる日本人は7万人ともいわれ、日本語を話す医師・歯科医師の存在は貴重である。

 学生のころ、タヌース君は医者になる気なんかなかったと、よくいっていた。でも家族にいわれて、仕方がないから、医学の勉強をしたという。たしかにご本人の才能は、医学だけではなかったことが、その後に証明されたと思う。

 NHKの「おしん」をご存知であろう。この番組は、東南アジアではたいへんな人気を博した。日本がいわば東南アジア的だった時代の、ある種の理想的な生き方を示すものとして、東南アジア全体に広く受け入れられた。ところがタイでは、はじめ「おしん」の視聴率が低かった。そこでタヌース君が翻訳を担当することになった。そのとたん、視聴率がどんと上がった。つまりタヌース君の才能は、言葉つまり文科的な方面にあった。本人は私は「おしん」の翻訳者として有名なんですよ、と笑っていう。

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