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【産経抄】11月22日
このニュースのトピックス:ノーベル賞
「すぐれたテクノロジーは魔法と区別できない」。SF作家、アーサー・C・クラークの言葉通り、科学の本物とニセモノを区別するのは難しい。たとえばこんな設問があったとする。
▼(1)超音波を使って、蚊を寄せ付けなくする。(2)ヒトの皮膚から、神経や筋肉などの細胞に分化する能力をもつ人工の万能細胞を作り出す。どちらが、科学的な事実なのか。きのうの新聞を読むまでは、(1)だと答えたかもしれない。
▼なにしろ「超音波蚊よけ器」は、120万個も売れたという。蚊食い鳥と呼ばれるコウモリは、超音波を出して獲物の位置を測ることが知られている。だったら蚊が、超音波を嫌ってもおかしくない。こんな“原理”は、もちろん存在しない。公正取引委員会の実験でも、効果はまったくなかった。
▼一方、京都大学再生医科学研究所のチームが作り出すことに成功した細胞は、「人工多能性幹細胞」(iPS細胞)と名付けられ、米国の科学誌に発表された。研究が進めば、患者の皮膚から移植用の組織が作られるようになり、拒絶反応のない再生医療が可能になる。しかも、これまで最先端の研究の主役だったES細胞と違い、受精卵を使わないことから、倫理的な問題が回避できることも大きい。
▼リーダーの山中伸弥教授は、もともと整形外科の臨床医だった。全身の関節が変形する、重症のリウマチに苦しむ女性患者を担当したことで、当時の治療法に限界を感じ、基礎研究の世界に飛び込んだ経歴をもつ。
▼志を果たしつつある山中教授らには、ノーベル賞の可能性まで取りざたされている。超音波も万能細胞も、いまだに魔法の世界に残したままの小欄は、心の中で万歳を叫びつつ、考え込んでしまう。生命って何だろう。