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【断 中条省平】ケンカ・セッションは楽し
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音楽の世界に「ケンカ・セッション」という言葉がある。
例えば、ビートルズの名曲《オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ》はピアノの軽快なコードの連打で始まり、それが曲全体の躍動的な雰囲気を高めている。だが、この時ポールとジョンの仲は最悪だった。そこでジョンはポールの曲に怒りをぶつけるためにピアノをぶっ叩き、それが結果的に名演となった。そんな音楽の不思議が「ケンカ・セッション」の魅力だ。
ジャズの世界では、1954年クリスマス・イブのマイルス・デイヴィスとセロニアス・モンクの共演にとどめを差す。「オレの後ろでコードを弾くな」というマイルス。いきなりピアノ・ソロを放棄してしまうモンク。「弾けよ〜」とラッパを吹くマイルス。このケンカが本当に感動的な音のドラマになっている。
最近、これらに匹敵するケンカ・セッションを聴いた。明田川荘之のCD『シチリアーノ』である。ケンカしたのは、藤川義明と翠川敬基。ともに日本の70年代フリー・ジャズを支えた名手であり、盟友である。それがライブのさなかに音楽的方向の違いから「真面目にやれ」「馬鹿」「馬鹿とは何だ」とケンカになり、ついには殴りあいに発展した。その緊張あふれる(そして他人から見ればちょっと滑稽(こつけい)な)トラブルが明確に録音されてしまったのだ。そして、この緊張感のせいか、CD全体が格調高い名演となっている。
お二人ともすでに60歳近い。そんな男が、たかが音楽のために大人げなく殴りあう姿は悲しいまでに純粋で、ともすれば目先の損得や金勘定に我を失う大多数の日本人中年男性に比して、なんだか年老いた天使のように美しく見えたのだった。(学習院大学教授)