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【断 中条省平】重み増す澁澤龍彦の美学

2007.11.10 03:41
このニュースのトピックスコラム・断

 早いもので、澁澤龍彦が亡くなって今年でちょうど20年になります。澁澤が亡くなった1987年にはパリに留学していたので、当時、その衝撃は直接伝わってこなかったのですが、こうしてフランス文学の教師になどなってみると、歳月を経るごとに澁澤龍彦の重みが増してくるようです。

 極言すれば、近代日本文学は二人の批評家しか生みださなかった、というのが私の考えです。一人は小林秀雄、もう一人が澁澤龍彦です。小林は近代的自我の批判的検討から出発して、日本の美意識の伝統にかえりました。まあ、日本の文芸批評の王道ですね。

 これに対して、澁澤は近代的自我など歯牙にもかけず、日本の伝統とも無縁でした。そのかわり、世界をポエジーの遍在する源泉と見て、独自の美学に照らして再編成する可能性を示しました。世界と芸術の豊かさに比して、自我や意識など何ほどのものかという潔い心意気です。それゆえ、今でも文庫本で若い人に大いに読まれ、批評と翻訳が40巻(!)もの豪華な全集に編まれました。

 没後20年ということで、この春には「澁澤龍彦幻想美術館」という、彼の好きな美術を中心にした大規模な展覧会が開かれました。今は、仙台文学館で「澁澤龍彦幻想文学館」という展覧会が開かれているので、仙台に行ってきました。

 「幻想美術館」と比べるとこぢんまりとしていますが、深い森に包まれた空間で、澁澤の原稿やノートや身の回りの品が見られ、彼の人となりが窺(うかが)われる魅力的な展覧会でした。創作ノートを見ると、澁澤の本質がコレクションとアンソロジー(収集と選択)にあることが分かり、あらためてその徹底性に深い感銘を受けました。(学習院大学教授)

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