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【断 久坂部羊】睡眠薬のむずかしさ
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在宅医療の患者から、よく睡眠薬を求められる。高齢の患者は不眠に悩む人が多い。病院から引き継いだ時点で、すでにかなりの睡眠薬を処方されている人もいる。
1錠か2錠で眠れるうちは、まだ問題は少ない。それ以上増やしはじめると、十中八九、困ったことになる。薬が効かなくなって、量を増やしても眠れず、副作用で頭がぼーっとしてしまうからだ。ベッドから出ることもままならず、なんとか起き出しても、ふらついて食事もできない。昼間にうたた寝すれば、熟睡になってしまい、そのためまた夜が眠れないという悪循環になる。
だから私は睡眠薬の増量を求められても断る。その先に待っている状況を説明して、なんとか2錠までで我慢してもらう。患者は眠れないつらさと、中毒になる恐怖のはざまで悩む。説得は患者との根比べだから、ときに1時間を超えることもある。薬を増やせばその場は納まるが、果たしてそれが正しい選択だろうか。
「もうどうなってもいいから、とにかく今、眠らせてほしい」と血走った目で哀願されることもある。「前の先生はすぐ増やしてくれた」とも言われる。「これ以上、絶対に増やさない」とカルテに約束を書いて、3錠にしたこともある。しかし、2カ月後には「もう1錠」と求められた。
「先生は、寝られない苦しみがわかっていない」。そう言われると、頭を抱える。医師として、患者の苦しみを見るほどつらいことはない。
気軽に薬を増やしたり、変えたり、組み合わせたりして、その場をやりすごせばいいのかもしれない。しかし、患者に楽なことが、ほんとうにその人のためになるのか。答えは患者自身に出してもらう以外にないと思う。(作家・医師)