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ソウル五輪(下)「休戦下の祭典」 「壁」は確かに越えていた (3/3ページ)
このニュースのトピックス:テロ・事件
金時さんのような顔を崩しながら、おどけた仕草で親指と人差し指で円を作って言った。
「これ…」
「えっ…」と私。
(そうか、報奨金…)
日本は柔道の7階級全てに選手を送り込んでいた。
だが、最終日に斎藤が出場するまで1人も決勝に残れず、壊滅状態だった。
金メダリストのために用意されていた報奨金は、誰も手にしていなかった。
金時さんは今、仕草でそのことを示したのだろうか。もちろん酒の席だから、真意ではない。でも、ほろ酔い気分の中で、不謹慎にも斎藤の仕草を楽しんでいたことを覚えている。
その夜、27歳の世界チャンピオンは、マイクを手に「王将」を歌いながら勝利の美酒に酔ったのだった。
ソウル五輪のテーマは「壁を越えて」だった。テロもなく、16日間の祭典は終わった。その限りに置いて成功だった、といっていい。
でも、いまだに韓国と北朝鮮が「分断国家」である現実は変わらない。地球上の戦火も絶えない。
日本はソウル五輪の翌年、「昭和」から「平成」に変わった。パルパル五輪は日本にとって、「昭和時代最後の五輪」という位置づけにもなった。
変わったものと、変わらないものがある。
そんな現実の中で、それでも私は思う。20年前の記者村からプレスセンターに向かうシャトルバスの車内の朝の光景を思い浮かべて…。
(楽しかったなあ。言葉もわからない、肌の色も違う。そんな記者の乗り合いバスだったのに、心は不思議に一つだった)
あの五輪。壁は、確かに越えていた。=敬称略(現SANKEI EXPRESS編集長 平田篤州)

















