- ニューストップ
- 北京オリンピック特集
- 特別企画
- 記事詳細
特別企画RSS feed

ソウル五輪(上)「世紀の抜かれ」 大舞台は人間を強くする (3/3ページ)
このニュースのトピックス:世界の怪物
90メートルあたり。自分より前を行く男がいることを、ルイスは信じられなかったに違いない。ジャマイカ出身でカナダ国籍の26歳は、大歓声の中、金字塔を打ち立てた。
<9秒79>
世界最高記録だ。人類が初めて9秒80の壁を破った瞬間だった。歴史的な時間と空間を共有できた高揚感からか、私はただ立ちつくすだけだった。
未明の記者村に、話をもどそう。
「とにかく手分けして裏取りや。IOC、JOC、えーと日本選手団も…」
今となっては、「抜かれ」の衝撃だけが残っていて、同僚記者と何を話したかは、はっきりとは覚えていない。
MPC(メーンプレスセンター)で朝、緊急会見が開かれた。そのドーピング会見には同僚記者が出た。私は選手村に走り、日本人選手にコメントをもらって夕刊用に記事を送った。そんなことを覚えている。
いずれにしても全世界注視の中での「抜かれ」である。「世紀の抜かれ」といっていい。
オリンピックという晴れやかな取材で味わった屈辱感は、その後も心に横たわり続けることになる。
□ □
不思議に思われるかもしれないが、9秒79というタイムをこの20年間、忘れていた。
今年5月、ジャマイカのウサイン・ボルトが9秒72の世界最高記録を出した。ジャマイカの短距離界が、なぜ強いのか。その謎解きをするスポーツ紙の特集記事の中で、久しぶりに「9秒79」という数字を見つけた。
思えば、「世紀の抜かれ」の体験は貴重だった。
世界に恥をさらしたことに比べれば、その後の「抜かれ」は、どうということはなかった。勝負度胸がついたのだ。
大舞台は、人間を強くする。=敬称略(現SANKEI EXPRESS編集長 平田篤州)













