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【あと1年で裁判員(3)】「守秘義務」押し付けるだけでは無理 足りない「ケア」

2008.5.6 15:13
このニュースのトピックス刑事裁判

 ■なぜ裁判員に「守秘義務」?…制度を機能させるための“担保”

 妻「今日の評議、どうだった?」

 夫「実は裁判長がね…。おっと、これはしゃべっちゃいけなかったんだ…」

 1年後には、こんな会話が家庭で繰り広げられるかもしれない。

 裁判員法は裁判員や、過去に裁判員を務めた人に守秘義務を課している。「評議の秘密」や、「裁判員として職務上知り得た秘密」は、生涯守らなければならないのだ=表を参照。

 外部に漏らした場合には、懲役刑を含む罰則規定もある。

 妻や夫、子供に話すのも「守秘義務の意義からすれば差し控えてもらいたい」というのが最高裁の見解だ。

 なぜ、裁判員に守秘義務が課されているだろうのか。

 最高裁は「評議でだれが何を言ったかが明らかにされれば、批判や報復を恐れて自由に発言ができなくなる」という点を挙げる。また、被害者などのプライバシーは当然守らなければならない。

 このため守秘義務は、裁判員裁判を適切に進めるための重要な担保となる。

 ■そうは言っても…人間は喋りたがる生き物

 ただ、広く知られる「王様の耳はロバの耳」の話のように、秘密を握ると他人に話したくなるのは古今共通の人情というもの。

 最高裁が4月に公表した「裁判員制度に関する意識調査」でも、裁判員として参加する場合の心配として「秘密を守り通す自信がない」を挙げた人は26・1%にも上った。

 「秘密を生涯守るのは、そう簡単なことではない。守秘義務は裁判員経験者にとって大きなストレスになることは間違いない」

 同志社大学文学部の余語(よご)真夫教授(社会心理学)は、そう指摘する。

 余語教授らのグループは平成10年に、秘密の保持に関する興味深い実験を行っている。

 118人の学生を対象に、恐怖心や嫌悪感を催すホラー映画のワンシーンを6分間見せた。このうち約半数の62人には「実験内容が漏れると結果に影響してしまうので、ここで見た内容や感想は今後1週間秘密にしておくこと」と指示、誓約書への署名も求めた。

 1週間後、この誓約を破って実験の内容や感想を他の人に話してしまった学生は、33人(約53・2%)に上った。実に半数以上もの学生が、秘密を守れなかったのである。

 ■“喋る”は本能…守秘義務を機能させるための制度的ケアが必要

 余語教授は言う。

 「人は、自分の経験や感情、考えなどを他者に開示する『自己開示』の欲求を内在的に持っている」

 特に、感情経験に関する開示衝動は強く、喜怒哀楽を他者に語って共有しようという傾向があることが、近年の研究で分かってきている。

 裁判員裁判で扱うのは殺人や傷害致死などの凶悪事件であるだけに、悲しみ、恐怖などの強い感情を喚起させる。悲惨な事件をめぐる評議での白熱した議論が、裁判員の自己開示衝動を刺激するのは明らかだ。

 「評議で議論に負け、消化できない感情を抱えている場合なども人に話してしまうこともありうる」(余語教授)という。飲酒による影響も無視できない。

 ただ、秘密は限定された他者との間で共有することによって保持することが容易になる。

 「裁判員経験者が心の中を吐き出せるような相談窓口を開設するなど、生涯にわたってきめ細かいアフターケアをしていく仕組みが必要だ」

 余語教授はそう提言する。

 一方で、模擬裁判で裁判員役を経験した男性会社員(38)は複雑な心情を吐露する。「口が重い方ではないので、家族や友人には話してしまうかもしれない。しかし、被告のその後の人生を考えれば、そう軽く話せることではない…」

 守秘義務を抱える裁判員経験者を、いかにケアしていくか−。その社会的議論はまだ、明らかに足りない。

このニュースの写真

東京地裁で4月に行われた模擬裁判。裁判員制度の開始まで、いよいよあと1年を切った(代表撮影)
模擬裁判の審理後に行われた評議。裁判長(手前左から2人目)の話に耳を傾ける裁判員たち=4月14日、東京・霞が関の東京地裁(代表撮影)
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