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【正論】精神鑑定の「基準」づくりを急げ 精神科医・国際医療福祉大学教授 和田秀樹 (1/3ページ)
ともに、「責任能力なし」
東京・渋谷のセレブ妻による夫のバラバラ殺人事件は、弁護側だけでなく、検察側の精神鑑定医までが、「(被告に)責任能力なし」の鑑定を下す異例のケースだった。東京地裁の判決は、被告に完全な責任能力を認め、懲役15年の判決を言い渡した。この判決について、司法と医学が異なる判断をしたと論じた新聞もあったが、私は医学の側にきちんとしたスタンダードやコンセンサスがないために、司法が、その判断を採用しなかったと考える。
実際には、判決文でも、被告が短期の精神病性障害にあったことも、幻聴や幻視があり、相当強い情動もあったことも認めており、「鑑定結果の信用性に疑いを差し挟む事情はない」と断じている。要するに、精神鑑定医の症状の診断結果は妥当なものであるが、責任能力なしという判断を採用することはできないということである。私は裁判官のこの考え方を支持する。
というのは、犯行時の精神状態は、素人判断でなく、精神医学的に見ても多かれ少なかれ、異常心理になっていることは少なくない。また、最近の精神医学の診断基準は、いくつかの症状を満たせば、その診断名がつけられる操作的診断基準といわれるものを使うことが多いので、なおのこと何らかの精神医学の診断名がついてしまう。つまり、凶悪事件の裁判では、非常に高い確率で、被告人に精神科の診断名がついてしまうのだ。
実際、司法精神医学の専門家に聞いてみると、犯行時に幻覚や妄想のような精神病症状があったとしても、その原因が心因である場合は、責任能力なしとはしないということだった。
正常でも異常な心理に
心因というのは、今回のケースのような暴力や、精神的にショックなことのために、精神状態がおかしくなることである。一方、統合失調症や薬物中毒、そのほか脳の病気などで精神病状態になっていた場合は、責任能力なしと判断する。

