ニュース: 事件 RSS feed
【産経抄】2月9日
このニュースのトピックス:「時津風」事件
不世出の名横綱といわれた双葉山は昭和16(1941)年、現役のまま立浪部屋から独立し双葉山道場をつくった。すると4人もの親方が自らの部屋をたたんでしまいその傘下に入った。角界でいかに慕われ、影響力を持っていたかを示している。
▼その双葉山の筆頭弟子といえる第42代横綱・鏡里が『鏡里一代』という自伝で師匠の思い出をつづっている。例えば三段目で全勝優勝した後、故郷の青森に里帰りしたいと許しを求めた。師匠は快く認めたばかりか、200円という当時の大金や着物一式を与えてくれた。
▼鏡里にとって師は終生、神さまのような存在だったようだ。双葉山はやがて引退し年寄時津風を名乗り、道場は時津風部屋となる。それから3代後の元時津風親方が傷害致死容疑で逮捕された。入門間もない力士が「しごき」を受け死亡した事件である。
▼相撲界を揺るがす不祥事である。だがこの世界には、口には出さないが「多少のしごきはどこにでもある」「それで力士は強くなっていくもの」といった抵抗感があるという。それがウミを全部出し切る改革に踏み切れない一因のようにも思える。
▼確かに多くの力士の一代記には「しごき」を受けたような記述も多い。違うのは、そこに双葉山のように絶対的な力を持ち、温かみもあった親方がいて目を光らせていたことだ。その存在が行き過ぎた「しごき」にブレーキをかけ、力士の救いにもなったのだろう。
▼元時津風親方はカメラが趣味で、一見温厚そうだが、酒癖が悪かったという。つまりどこにでもいるようなタイプの人だった。朝青龍問題でも感じたことなのだが、相撲界も今や普通の社会と変わらなくなった。そこに「悪(あ)しき伝統」だけが残っていたのである。