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【プレーバック談話室】(6)「『食い逃げ』ってどんな味?」驚き通り越し目疑う
桧木さんの夫が経営する喫茶店は官公庁街の一角にある。モーニングとランチもあり日替わり定食は600円。5年前に嫁ぎ、手伝い始めた桧木さんにとって、食い逃げは「初めてのことで、驚くというより目を疑ってしまいました」。顔なじみの常連客が多い中、就職したばかりの若者風の一見さんだった。母の代から30年続く店だが、食い逃げは2、3回あったかどうかだという。
ことしのベストセラーに『食い逃げされてもバイトは雇うな』(山田真哉著、光文社新書)=新書・ノンフィクション部門8位、トーハン調べ=という本がある。いわば数字と会計の入門書。ラーメン店が1日10時間営業、1時間に2人の客が各1000円使う。うち5人に1人が食い逃げしても、時給800円のバイトを1人雇うよりはるかに得だと会計上で示している。後者(人件費)は、自治体が競ってハコ物を建設し、維持費などに苦しむのと似ている。
ファストフード店などの多くは前払い制で食い逃げの心配がないが、全国に1031店舗の牛丼チェーン最大手、吉野家には食券機がない。ネット上で「追いかけるなというマニュアルがある」と話題になったこともある。
同社広報によると、かつて食券機を実験的に置いたが、結局、接客を大切にするという観点から不採用に。「防犯カメラを配置しているせいか、被害はほとんどありません」。「追いかけるな」というマニュアルは存在しないが「お客さまや店員の安全が第一なので、食い逃げが起きても店舗の外には出ないよう指導しています」という。
■若者の将来案じる
(自営業、桧木優子=35)
あっという間の出来事で、わが目を疑った。私たち夫婦が営む喫茶店で、日替わり定食を食べていた青年が、食べ終わるやいなや、代金も支払わず全速力で店を飛び出していったのだ。
ちょうど、常連客でにぎわうお昼時。初めて見る顔で、ピシッとスーツを着こなした好青年に見えたのだが、怒る前に驚いてしまった。「これからの時世、あんな常識のない人が多くなるよ」とあきらめ顔の夫はひと言。私は「これから社会で戦力となり、頑張る立場の若者なのに」と、彼の将来を案じてしまった。
近所の額縁店では、最近、店の前に飾っている絵がいつの間にか、なくなってしまうという。信じたくはないが、盗んだものを部屋に飾って、それを美しいと感じ、心が癒やされることがあるのだろうか。
お金を払って、物を手に入れたり、食事をしたりするのは、常識中の常識だろう。いつか、あの青年にどこかで会ったら、お金を払わずに食べた定食はおいしかったのか、聞いてみたいものだと思った。
(高知市=10月22日掲載)