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【産経抄】11月27日
このニュースのトピックス:10代
「勘平はおらがすべいと村芝居」。江戸川柳にあるように、素人芝居で『仮名手本忠臣蔵』をかけると、早野勘平役のなり手ばかりになる。歌舞伎の立役にとってもあこがれの役らしい。
▼『芸づくし忠臣蔵』(関容子著)によると、中村勘三郎さんは10代のころ、盲腸の手術で生死の境をさまよったことがある。意識がもどると、おなかの傷口がパックリあいていた。こんなときこそ稽古(けいこ)をと、歌舞伎随一ともいわれる名セリフを口にする。
▼「色にふけったばっかりに…」。言わずと知れた、「六段目」のクライマックス、勘平が腹に刀を突き刺し、最後の告白をする場面だ。現在の演じ方を確立した五代目菊五郎はじめ、たくさんの名優たちが工夫を重ねたことで、悲劇のヒーローとしての存在がある。
▼でなければ、勘平なんてただの粗忽(そこつ)者にすぎない。死体の胸元から持ち帰った50両から、舅(しゅうと)を殺したと思いこむが、実は命を奪った相手は、舅を手にかけた山賊だった。いわばあだ討ちを果たしたわけだから、切腹する必要などなかった。そもそも、夜陰にまぎれたとはいえ、火縄銃でイノシシと間違えて人間を撃つとは。
▼勘平を気取ったわけではあるまいが、平塚市に住む男性会社員(57)は、もうすこしで、取り返しのつかない過ちを犯すところだった。25日の午後、東京都奥多摩町の登山道近くで、倒木に腰掛けていた38歳の男性を、イノシシと思いこんで発砲した。
▼男性は左腕に受けた銃弾で全治3週間のけがをしたという。精神的ショックはもっと大きいはずだ。川柳は「五段目で運がいいのは猪ばかり」ともいう。軽率な行動が、大きな悲劇を招き、喜ぶのはイノシシだけという事態にもなりかねない。猛省を促したい。