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【山口県光市母子殺害事件 遺族の思い】(4)完 「君は社会人たりなさい」
3 犯罪被害から立ち直るということ〜「遺族になって思うこと」
私は遺族ですので、犯罪により直接身体に危害を加えられたわけではありません。また、加害者と対峙し死の恐怖を体験したわけでもありません。
ですから、理不尽に人生を絶たれた妻と娘の苦しみや怒り、無念さに比べれば、私の悲しみなど取るに足らないはずだと思っています。しかし、そう思って頑張って生きようとしましたが、事件発生から1年くらいは本当に辛い日々でした。
特に、山口地裁で刑事裁判が始まった直後は辛かったです。法廷で加害者を見るからです。犯罪被害者の辛いところは、加害者が存在することなのかもしれません。当時の私は、裁判のことを考えると仕事が手につかなくなりました。私は会社へ辞表を提出しました。
また、平成12年3月の山口地裁判決の前日には、遺書も書きました。死刑判決が出なければ命を持って、抗議しようと思ったからです。今になって思えば愚かな行為だと思いますが、当時は真剣に悩んだ結果でした。
当時、私は山口県に一人で住んでいました。同県に親族は住んでいませんでした。そんな私が辞表や遺書を綴り人生を踏み外しそうになった時に私を支えて下さったのは、会社の上司や先輩の方々、そして同僚と友人でした。現在でも私は事件当時と同じ職場で、充実した仕事をさせていただいています。会社は、事件後の私にも責任ある仕事を任せていただき、サポートして下さいました。
本当に良い会社へ就職でき、素晴らしい上司や先輩の方々、そして同僚に恵まれたと思います。
今でも忘れられないのが、辞表を提出した時に上司が私に授けてくれた言葉です。
「この職場で働くのが嫌なのであれば、辞めてもいい。ただ、君は社会人たりなさい。君は特別な経験をした。社会へ対して訴えたいこともあるだろう。でも、労働も納税もしない人間がいくら社会へ訴えても、それは負け犬の遠吠えだ。だから君は社会人たりなさい。」
私は、この言葉に何度助けられたことでしょう。今になって思えば、私は仕事を通じ社会に関わることで、自尊心が回復し社会人としての自覚も芽生え、その自負心から少しずつ被害から回復できてきたと思います。
もし、会社という媒体で社会との繋がりがなく一人孤立していたら、今の私は居なかったと思います。私は、周りの方々に本当に恵まれたと思います。
しかし、犯罪被害者の中には、相談できる人もなく、孤立し、一人で重荷を抱えている方が大勢いると思います。そのような状況に置かれている方を想像するだけで、私は言葉を失います。
犯罪という愚かな行為で、命を奪ったり、生きる気力を失わせるほどの身体的、精神的な苦痛を与えるのも人であれば、犯罪という閉塞された暗闇から被害者を救うことができるのも、また人です。
被害者が、社会との繋がりを回復し、社会や人を信頼して生きて行く気力を再生させるには、その心の傷を吐露できる場と、その気持ちを受け止めてあげる人が必要です。そして、社会から隔絶されているのではなく、社会と繋がっているという意識を持ち、孤立感を払拭させてあげることが極めて重要だと思います。
その為には、親族や周囲の方々からの精神的な支えも当然必要ですが、福祉医療、法律など専門的な知識とそれに基づく支援は必要不可欠です。このような専門的な支援を提供できるのは、犯罪被害者支援団体や地方自治体だと私は考えています。
今後は、犯罪被害者に関わる専門的な知識を有した方や機関による支援を速やかに受けることができる連携体制を整える必要があると思います。
4 最後に
犯罪は、誰も幸せにしません。被害者も加害者も不幸にします。
私は、犯罪被害者支援の必要性と犯罪被害の深刻さが社会へ広まり、犯罪は絶対に許されないという価値規範が社会通念として浸透することで、被害者支援だけでなく、犯罪防止へ繋がればと願って止みません。そして、犯罪被害者そのものが減少し、不幸にして犯罪に巻き込まれた方々が一日も早く犯罪被害から回復し、平穏な生活を取り戻せるような社会を実現できればと切に願っています。