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【山口県光市母子殺害事件 遺族の思い】(2) 「娘は二度殺されました」
2 刑事裁判〜「裁判を通して思うこと」
事件発生後から1カ月間、私は会社を休み警察による事情聴取を毎日受けました。事件を解明し、少しでも妻と娘の無念を晴らしてあげたいと思い一生懸命に応じました。警察の方も、時に涙を浮かべながら私の話を熱心に聞いて下さいました。
事情聴取の途中、何度か加害者の証言や事件の内容について警察の方に質問しましたが、「被告人しか知りえないことを他言することはできない。裁判で必ず事実が解明されるから、裁判を傍聴して事実を知って欲しい。申し訳ないが、今は堪えて欲しい」と言われました。
事件発生から4カ月後、山口地裁で刑事裁判が始まりました。私達遺族は、事件の真相を知るために裁判所へ向かいましたが、遺族に用意された傍聴券は3枚でした。傍聴券は足りません。そのため、私達遺族は一般の方と同様に裁判所の抽選に並び、当選しなければ入廷できませんでした。残念ながら山口地裁では遺族全員が傍聴することは出来ませんでした。
話は少し逸れますが、私は裁判が始まる前に一つの大きな悩みがありました。それは、妻に対する強姦のことです。私は、妻の第一発見者です。素人でも妻の最期の姿を見れば、妻が何をされたのか分かります。私は、妻が強姦されたことをお母様に話すことができませんでした。しかし、裁判が始まれば、事件の概要が分かります。当時の報道では、女性に対する配慮から『強姦』という言葉は使わず、『暴行』という曖昧な表現をするのが一般的でした。ですので、お母様も強姦されたとは思っていなかったようです。私は裁判で突然強姦された事実を知るのは酷だと思い、ある日お母様に、私の知りうる全てをお話しました。私の話を聞き泣き崩れるお母様が言われた「娘は二度殺されました」という言葉を私は忘れられません。
被害者にとって、事実を知ることが幸せなのか、不幸なのか分からなくなった瞬間でした。しかし、それでも被害者は、事実を知りたいのだと思います。どんな残酷な最期であっても愛した人の最期を知り、墓前で手を合わせ、語りかけてあげたいのだと思います。
だから多くの被害者は見たくもない加害者が居る法廷へ向かい、聞きたくもない加害者の弁明を聞いてでも裁判を傍聴するのだと思います。
被害者にとって裁判は、唯一事実を知ることができる場なのです。
私の事件は、平成12年3月に山口地裁判決、平成14年3月に広島高裁判決が下り、いずれも検察の死刑求刑に対し、無期懲役という判決でした。この判決を不服とし、検察は上告して下さいました。そして、広島高裁判決から4年後の平成18年6月に最高裁判所は広島高裁で再度審理をやり直すように判示しました。いわゆる『差し戻し』という判決です。
この最高裁判決を受けて、平成19年5月より、再び広島高裁で裁判が始まりました。実に事件発生から8年も裁判をしていることになります。そして、この8年間、いろいろなことがありました。
裁判傍聴券がなく遺族全員が傍聴できないことだけでなく、法廷への遺影持ち込みを裁判所に拒否され入廷させてもらえなかったことや、弁護人が裁判を欠席したため法廷が延期されたこと、被告人が山口地裁や広島高裁では認めていた犯行を事実を、事件から7年経過した最高裁で突然否認に転じるなど、様々なことがありました。
私は、被害者にとって裁判を傍聴するということはとても大変なことだということを痛感しました。そして、裁判が結審せずに長期に亘り継続されることは、想像以上に精神的疲労が蓄積することも知りました。
しかし、その一方で、刑事裁判において被害者が置かれている状況があまりにも酷いことが社会へ認知されはじめ、平成12年5月には犯罪被害者保護法が制定されました。この法律により、被害者の優先傍聴が認められるようになり、更に被害者が法廷で意見陳述をすることが出来るようになりました。私は、広島高裁で意見陳述権を行使させていただき、初めて遺族として事件や家族に対する思い、そして被告人に対する思いを話すことができました。
犯罪被害者保護法の制定により裁判を傍聴することは出来るようになりましたが、傍聴席でじっと聞くだけでは、必ずしも事件の真相が見えてこないことが分かりました。被害者から観ると納得し難い主張を被告側がする場合があります。時として、その被告側の主張は被害者や遺族を侮辱するような内容であることもあります。
私は何度も傍聴席から声を上げたくなることがありました。そして、被告人に直接聞き、問い質したいという事が幾つも湧いてきました。
しかし、現行法では犯罪被害者には被告人に質問する権利は認められていません。被害者は法廷で加害者や弁護士が何を言っても、ただじっと傍聴席で切歯扼腕して耐え忍ぶだけです。私は、被害者遺族はもっと刑事裁判に関わる権利を有するべきだと強く思いました。