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【産経抄】10月23日
このニュースのトピックス:論争「朝日vs産経」
ある秋の午後、東京の私鉄の車内で出合った光景だ。大きな袋を抱えて乗り込んできたおじいさんとおばあさんが、温泉がよかった、アジのたたきがおいしかった、と楽しそうに話している。
▼どんな旅行だったのか、見当がついた。1泊2食付き伊豆・下田温泉ツアーに違いない。お一人様9800円の団体旅行だったら、マグロは蓄養物の冷凍輸入、とっくりの酒は1升あたり600円ほどの業務用だったはずだ。
▼それにひきかえ、友人と飲むつもりで持っていたのは、とびきりの吟醸酒だ。にもかかわらず、自分の方が「いやしく、みっともない」と感じ、「2人の食卓のほうがはるかに豊かに思える」と、食文化研究家の魚柄仁之助(うおつかじんのすけ)さんが書いている。
▼近著の『冷蔵庫で食品を腐らす日本人』(朝日新書)のあとがきだ。巨大な冷凍冷蔵庫なしでは暮らせなくなった、日本人の“崩食”を憂え、2人が示したような「食」への感謝の気持ちを取り戻せ、と訴えている。創業300年の伊勢名物「赤福」の偽装も、そんな日本人の食生活の堕落と無関係ではない。
▼浜田典保社長は記者会見で、「もったいないという意識からだった」と語った。冷凍技術の発達によって、解凍した「赤福餅(もち)」が、「作りたて」と品質がそれほど違わないのなら、焼却処分は無駄だという理屈だろう。いまや国際語になった日本人の美徳を不正の言い訳に使われてはたまらない。
▼もったいないという言葉は、人や物の有効利用を訴えているだけでなく、感謝、あるいは恐れ多いといった意味も含んでいる。お伊勢さん、長年の顧客、そして原料となる大地の恵みに対して「もったいない」という気持ちが少しでもあれば、偽装など起こりえなかったはずだ。