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【やばいぞ日本】第3部 心棒を欠いている(11)

2007.10.9 04:10
このニュースのトピックスやばいぞ日本

 ■中国に握られたITの「鍵」

 インターネットによりカネ、モノ、ヒト、資産のすべてがデジタル情報に置き換えられ、世界中を光速で移動する。

 それは「サイバー空間」と呼ばれる。「今やサイバー経済こそが経済だ。ネットワークが攻撃されて障害が起これば、その国の経済が崩壊しかねない」。ライス米国務長官は国家安全保障担当大統領補佐官だった2001年3月、こう警告した。

 サイバー攻撃の脅威に危機感を募らせる米国の対極にあるのが日本である。

 今年5月、中国政府のある対外通告について、日本政府は気にも留めなかった。それは「中国国家暗号管理局は外国で生産された暗号付き製品の使用を禁止する」という規定である。

 日本など外国企業はコンピューター暗号を解除する「鍵」を当局に渡すか、暗号を解除していないと、中国にソフト、ハードを持ち込めない。IT業界大手の幹部は言う。「われわれが中国で委託生産するソフトの中身はすべて中国当局に知られてしまい、一元管理される」

 野村総合研究所の推計では05年で中国人のソフト技術者のうち約6万人が、日本のIT企業向けサービスに従事している。その業務内容は、中国で委託生産される日本企業の製品設計、各種システムや金融機関のネットワークから、日本政府の「電子政府プログラム」まで多岐にわたる。中国当局により玄関から金庫の鍵まで開けられても、黙って従うしかない。

 「中国一辺倒がまずいのはわかっているが、中国はとにかく便利」と情報システム大手幹部はいう。

 本紙記者が最近訪ねた大連の現地企業は社内の「公用語」を雑談まで含め日本語にするほど日本化に努めていた。

 対中依存が進んだ背景には、日本政府によるIT業界への「丸投げ」の構造がある。

 政府は01年に「電子政府プロジェクト」を打ち出したが、実態はプロジェクト設計からプログラム作成、保守管理まで、すべて発注先まかせだ。

 業界各社は「1円入札」までして受注し、コストを浮かすために、中国にさらに投げる。

 電子政府推進官庁である経済産業省自身、同省の電子政府ソフトを東芝に発注、東芝はさらに提携先の瀋陽の企業に基本設計段階からすべてを委託した。

 保守管理も同じだ。官庁の大半はセキュリティー責任者を設置したが、多くは素人で、「われわれに会うたびに『頼んだよ』といわれる」(IT業界幹部)。中国が関与する余地は果てしなく続く。「この世界は性善説に立つしかない」(内閣官房のスタッフ)と言うのが本音である。

 だが、中国を「善」とは中国当局ですら認めないだろう。

 中国の公安当局は9月26日、今年5月までの1年間で中国国内のネットワークのセキュリティーのトラブル発生率は65・7%で、ウイルスに感染したコンピューターが過去最高の91・4%に達したと発表した。

 警察庁が検知した中国からの発信元によるハッカー攻撃は今年上期、1日当たり2112件に達した。

 冒頭のライス長官発言にある通り、サイバー攻撃はむしろ防御の弱い経済に向けられる。8月にはドイツの経済技術省などの経済情報が人民解放軍により侵入され、メルケル首相がたまりかねて8月末の訪中で温家宝首相に抗議した。

 それに比べ、すき間だらけな日本の官庁は被害を受けた形跡が見当たらない。「ひょっとして奥の院まで知り尽くしたハッカーが痕跡を消してしまい、われわれは気がついていないだけかもしれない」とIT業界関係者は声を潜めて言った。

 米国では、サイバー攻撃を「ブラック・アイス(高速道路に薄く張った氷)」と呼ぶ。だれも気が付かず、いったん事故が起きるとパニックになるからだ。(田村秀男)

 ■防衛と警察の連携見えず

 この8月から9月にかけて世界中を騒がせた米国防総省や独、仏、英政府の中枢部門へのハッカー攻撃は、米欧の専門機関により中国人民解放軍の犯行濃厚と判断された。

 狙いは米軍などの情報奪取にあるとされるが、一国の軍が組織的に行動したとすれば、サイバー戦争時代の開幕とみておかしくない。

 金融取引が停止し、工場の操業がストップ、ダムからの大量放水で下流の都市が洪水に見舞われる−こんな悪夢のような攻撃も起こり得る。

 北京市西郊の西山には中国人民解放軍の本部がある。日中軍事関係筋によれば、市販の地図に載っていない軍本部ビルにコンピューターなどのハイテク機器を中心にしたサイバー戦を想定した総参謀部第3部が入っている。

 第3部は「網軍」と呼ばれる。1600人以上のサイバー部隊を擁し、フロアには数百台も最新鋭のパソコンがずらりと並んでいる。

 解放軍の7大軍区に拠点を設置し、本部と各拠点を光ファイバーで結び、サイバー戦争を想定した軍事作戦訓練を頻繁に行い、米国への留学生を含め人材をさらに募っている。

 中国国内でソフト工学の学部学科を持つ大学は400に上り、在籍学生数は40万人。その中からハッカーも生まれ、その技術向上を競う。

 日本はIT技術者不足をその中国で補い、暗号を解除してまで中国に設計内容を伝え、プログラマーを養成している。相手が解放軍でなくても、日本が中国の各地からサイバー攻撃を受けやすい条件がますます整っていることになる。

 ところが、日本側の防御意識は低い。

 まず政府の体制は縦割りの域を出ない。情報セキュリティーを統括する内閣官房情報セキュリティセンターは「政府横断的な情報収集や情報共有、攻撃の分析・解析のための統合組織を整備する」と言うが、掛け声だけである。

 演習を実施しても「実際に海外からの攻撃や犯罪が発生した場合、対処すべき任務を担う自衛隊や警察は演習に加わっていない」と元総務省幹部は言う。

 警察庁は各警察機関に設置した情報を「サイバーフォースセンター」に集約し、攻撃の端緒を24時間体制で監視して対応する緊急対処チーム「サイバーフォース」を擁している。

 防衛省も今年度の組織改編にあわせて、自衛隊通信システムなどへのサイバー攻撃に迅速に対処できる統合的な通信部隊「指揮通信システム隊」を設置するが、警察庁のサイバーフォースとの連携は見えてこない。

 日本の官庁などはこれまで首相の靖国参拝など「歴史問題」が浮上するたびに集中的に中国各地から攻撃されたが、「ホームページ書き換えなどはどうってことない」(内閣官房筋)と問題視すらしない政府関係者が少なくない。

 自らの省の電子政府プロジェクトまで中国に丸投げしても無頓着なのは、サイバーテロへの危機感が希薄なためだろう。経済が崩壊したら、日本がどうなるかを考えれば、国の総力を挙げて防御の道を取るしかない。それなのに、この国の官僚組織は動こうとしない。(相馬勝)

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