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【青雲の大和】(358)青雲の果て (1/2ページ)
あと一歩だ、と思った。
とにもかくにも唐帝は、高句麗(こうくり)、百済(くだら)、新羅(しらぎ)への不可侵を明言した。あと一歩で、大和と唐の永久(とわ)なる友誼(ゆうぎ)と安寧をはかる玄理(くろまろ)のねがいが実現するのである。
しかし、いま大和の使節団のまえで唐帝が話したことのなかには、なぜか大和の国名がなかった。恵日(えにち)はその理由を帝に問うてみるところから、玄理のねがいを確かなものにするための詰めの一歩をふみだそうとした。
「ただいまの陛下のおことばに、わたしどもは恐悦(きょうえつ)しておりますが、大和(だいわ)についてはさて、陛下はいかが思し召しでございましょうか」
大和の国名はないが、帝は半島の国々と同じく、大和にも不可侵を宣した、とみなしていいのかどうかである。
その問いにたいして唐帝から返ってきたのは、これもまた恵日が予想していなかった、ちょっと信じられないような回答だった。
「王国は、東夷(とうい)の国々に近いときいているが、どうか」
帝はまず、そのように恵日に問いかけてきた。
このばあい、帝のいう王国とは大和をさしているのはあきらかだが、そうだとすれば唐帝は、大和を東夷、すなわち東の夷狄(いてき)とみなしていないことになる。
「大和は新羅、百済の東方に位置しておりますれば、仰せのとおり、かなり近接しております」
恵日が答えると、帝はしばらく瞑目(めいもく)して考えていたが、やがてぱっと眼をあけると、いちだんと声に力をこめて話した。
「卿(けい)らも知るとおり、東夷の国々はいまも争いが絶えぬ。これよりのち、天兵をださないと決するなら、東夷の国のいずれかが亡びることも起きてくるであろう。そこで王国には、わが天兵に代わる使命を果たしてもらいたいのである」
そういって帝は最後に、力づよい簡潔な文言で、つぎのように命じたのである。
「もし東夷に危急あらば、宜(よろ)しく遣使してこれを救え」