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【青雲の大和】(348)青雲の果て (1/2ページ)
「恵日(えにち)の考えをきかせてくれないか」
長い沈黙の後に玄理(くろまろ)が口にしたのは、使節団の副使であり、かつての留学生仲間でもある恵日の判断に、たよろうとするかのような問いかけだった。
これまで恵日がなぜ、武照(ぶしょう)派の動きを報告しなかったのか、その理由をおそらく玄理は知っているのである。玄理の最後の望みを武照派のあくなき権力欲でけがすことなく、純粋なかたちで達成させてやりたいという恵日の思いやりを、おそらく玄理は知っている。
それに気づいていて、あえてふれることなく話をすすめようとしているところに、恵日は玄理の気の弱まりがあるように思えてならなかった。
「はっきりいおう。武照はこれをきっかけに皇后を追いだし、権力をにぎり、病弱で力のない帝に代わって天下に臨むだろう。しかし、それでもいいではないか」
恵日は玄理を力づけたくていった。武照派のけがれた動きには、このさい眼をつむって、われわれの策を進めようという考えである。
「英公(えいこう)の話では、武照はこのところしきりに則天(そくてん)、則天ということをいいだしているらしい。なにごとも天に則(のっと)ってやればうまくいく、というつもりだろうが、おれが思うに、来年にはあの女は皇后位について武后(ぶこう)を名乗り、仇敵(きゅうてき)は皆、この世から追いはらってしまうにちがいない。が、それでもいいのではないか。その力をうまく使って、玄理(げんり)の考えるところを天下にひろめさせればいいのだ」
いささか乱暴な話だが、いまの情勢下で玄理の理想を実現するには、このあたりで手を打つしかないと思うのである。
玄理はしかし、気にいらないのか、厚い綿入りの茵(しとね)を敷いた座にあって、ふたたび眼をつむってしまっていた。
尊敬する押使(おうし)のそのようすをみた田辺鳥(たなべのとり)が、瞳をまっすぐむけ、床(ゆか)に手をついて献言をはじめた。